Case Study
導入事例
情報システム台帳と
健康管理システムの構築
入力項目が多い台帳管理の効率化と、Accessで稼働していた健康管理システムのWeb化。
全職員4000人を対象としたWebシステムの構築に成功。
問題点と課題
滋賀県庁において、情報システムの台帳に相当するデータの収集はExcelファイルの受け渡し(メール等)により行われていたが、以下のような問題が発生していた。
- Excelへの入力間違いが多い(ルール外の入力も多い)。
- Excelの書式を変更しても、旧書式で提出されることがある。
- ファイル提出状況の管理や、データの集計に手間がかかる。
- 台帳間の整合が取れないことが多く、データ連携に問題が発生する。
- 各年度ごとに書式が若干異なる為、データを積み重ねた時系列的処理が困難。
これらの問題を解決するにはWebアプリによるデータ収集が近道である。
同庁の福井氏は、業務整理と問題点の可視化を行い、Webアプリシステムを構築するにあたり、個別で開発を行うか、パッケージを導入するか、クラウドサービスを利用するか検討を行った。
しかし、パッケージにおいても、クラウドサービスにおいても本業務に類似する物が殆どなく、ノンプログラミングツールによる独自開発を行うこととした。
Excelを基本とした台帳であったため、このExcelを生かせるツールはないものか。福井氏はExcelでWebアプリを作成できるXCuteの評価を行った。
その結果、低コストでWebアプリが作成できると判断し、XCuteでの導入を決定、開発を開始することとした。
福井 氏
60歳超でシステム台帳構築に携わりました。
パッケージソフトかクラウドを考えていましたが、コスパ的にXCuteを選定しました。
その結果、要求仕様作りだけでなくプログラミングも担当することになりました。
大昔、メインフレーム時代にシステム構築経験はありましたが、最近のWEBコンピューティグ、RDBといったIT技術には縁がありませんでした。
不安一杯でしたが、サンプルひな型をなぞりながら、htmlやSQLはGoogle等で確認しながら、また、それでも分からない時にはマイクロラボ殿の迅速・的確なご指導を頂くことで、順調に開発を進めることができました。
感想としては、『見よう見まねでいつのまにかWEB-APが出来た。』というところでしょうか。
今後はひな型の標準化を進めることで、画面遷移制御・エラー処理といったビジネスロジックに関係がない煩わしい処理のライブラリ化(部品化)でプログラムの生産性が上げられないか検討したいと思います。
解決方法
こうして「情報システム台帳」の開発に着手した福井氏であるが、1年弱でシステムの構築を完了した。SIerの力を借りることなく、完全な独力での開発であった。
システムは大きく分けけて以下の7システムである。
① システム企画/計画書登録
② システム審査票作成
③ 契約書登録
④ IT関連予算登録
⑤ 開発・運用状況調査
⑥ システム・セキュリティ対策自己点検
⑦ 各種アウトプット
主要画面の数は60画面におよび、データベースのテーブル数は60以上、ビューも200弱という規模で、1年弱で構築するのは、通常の開発環境では困難であったであろうと福井氏は振り返る。
「既存のエクセルファイルを画面として、そのまま使えたことが開発効率上、有効であった。」と福井氏は語る。
構築システム
ここで「情報システム台帳」の画面を紹介します。
本システムで全庁のシステムを管理するため、その管理対象システム数は200弱に及びます。
管理項目が多いため、使い勝手の良い画面構成となるように工夫が凝らされています。
業務選択メニュー
計画書ーシステム選択画面
計画書ー計画台帳画面
縦に長い画面構成となっており、状況を俯瞰できる作りとなっています。
さらにこまかな入力が必要な部分は、詳細に遷移するよう設計されています。
仮保存という概念があり、入力値のチェックをせずに保存することができます。本保存時に、詳細なチェックを行うようになっています。
計画書ー見積もり内訳
計画書ー効果内訳
システム化による目標効果とシステムのライフサイクル(5年間)に対する投資と効果を評価します。
・投資・・・初期投資+運用コスト
・効果・・・経費削減、効率改善、サービス向上、信頼性向上、法対応等
この結果は「開発・運用状況調査」で確認するようになっています。
企画/計画審査
IT関連予算調ー所属選択
企画/計画審査で承認されたシステムについて予算化の状況を調べます。
システム企画/計画の見積もりの内容が自動リンクされ、それらの予算化状況を入力します。
各所属における、登録状況(承認状況含む)が一覧できる画面です。
予算の集計もここで一覧できます。
IT関連予算調ー予算一覧表
IT関連予算調ー予算調査票
契約書
開発・運用状況調査業務ーシステム選択
開発・運用状況調査業務ー契約締結状況
開発・運用状況調査業務ー目標効果の達成状況
開発・運用状況調査業務ーシステム状況(ソフト)
開発・運用状況調査業務ーシステム状況(ハード)
開発・運用状況調査業務ーセキュリティ状況
開発・運用状況調査業務ーバックアップ状況
開発・運用状況調査業務ー運用保守状況
システム化の成果と次のシステム構築
本システムのスピード構築と安定稼働に成功した福井氏であったが、次なるシステムの構築をすでに視野にいれていた。
本システムは、特定の部門のみが使うものであったが、次に構築を計画していたシステムは全職員。その数4000名が使うシステムである。XCuteの安定性、パフォーマンスは実運用を通して確認済みであり、どの程度のサーバ規模にすればよいかは目途がついていた。
そのシステムとは、「健康管理システム」であり、各職員個人ごとの健康管理を行うものである。
本システムは、いままでAccessで行われていた業務であるが、データ連携が弱い(データコピーで他業務システムと連携)、過去データを時系列でみることができず、毎年度毎のデータとなってしまっている、また所属間でのデータの利用が出来ないため構造的な問題を持っていた。
「情報システム台帳」の成功もあり、「健康管理システム」をXCuteで行うことは必然であったであろうと想像できる。
「情報システム台帳」との違い
「健康管理システム」は先に構築された「情報システム台帳」と以下の違いを持つ
- 個人情報を管理していること
- 外部健診事業者とのデータ交換があること
- 職員が直接入力または閲覧すること
- 一定期間に職員全員(4000名)がデータ入力することがあること
- 電子メールを活用した職員宛メール発信の要望があること
これらの相違点について大きな問題となるところはないが、本システムは大人数が使うシステムである為、特にレスポンスとセキュリティ面に力を入れて開発を進めることとした。
レスポンスに関しては、「情報システム台帳」の構築、運用である程度情報は収集できていた為、XCuteの負荷分散機能で問題がないことは確認していた。 セキュリティに関しては職員毎の個人毎のIDをもちいて、なりすましを行えないように考慮した。また、所属長権限、健康管理室の権限など、情報操作の範囲を明確にした。
こういった整理を積み重ね、「健康管理システム」を構築する準備が完了した。
ここで、本システム再構築の狙いをまとめてみよう。
もともとAccessで稼働していたシステムをWeb化することによるメリットを、下表で知ることができる。
項目 | 現状システム | 問題点 | 今回システム |
---|---|---|---|
データ管理業務 | 年度間のデータ連携ができずマニュアルで対応 | 業務、年度間のデータ連携ができずマニュアルで対応 | 全ての業務・年度データを一元管理 |
システム利用者 | 健康管理係専用 | 所属・職員データの収受はマニュアルで対応 |
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新しい ニーズへの対応
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業務毎にデータベースが分散し改修が複雑 |
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可用性 | 業務担当者のPCにデータ保持 | バックアップなし、ハード障害によりデータ消滅の恐れあり |
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ソフトツール (クライアント側) |
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滋賀県では非標準ソフトのため利用時は有償であり利用者が限定される |
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開発・保守 | 職員が構築 | 担当者が変わる度にACCESSを習得する必要がある。 |
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岩佐 氏
健康管理システムの開発において、私はVBAマクロを使ったツール(印刷範囲のみを抽出、メール送信)の開発を担当しました。
従来はシステム調達といえば業務委託をしてパッケージソフトを調達・構築でしたが、XCUTEを使えば職員の手でシステムを構築することができます。
健康管理システムではXCUTEの特徴(複数人によるデータベースの更新作業、データ一覧の閲覧・出力等)を活かすことができると判断し、パッケージソフトではなく、XCUTEによる構築を決めました。
昨今はノーコード/ローコードで容易にシステム構築が流行りですが、同じようにXCUTEを使ったシステム開発も視野に入れて取り組んでいきたいと思います。
解決方法
新たに岩佐氏が開発メンバーに加わり、「健康管理システム」の開発が進められた。岩佐氏は本プロジェクトを進めるにあたり、初めて触るツールであったXCuteの学習を行ったが、短時間の学習で済んだという。
「XCute独自の作法を理解すれば、あとは工夫の問題なので、さほど難しくありませんでした」と岩佐氏は語る。
こうして、福井氏、岩佐氏2名による開発は順調に進められ、120画面におよぶ大規模なシステムは、通常業務を行いながら空いた時間でおこなったにもかかわらず、1年弱程度でシステムの主要部分が完成した。
構築した画面が簡素なものであればそれほど驚く部分ではないが、今回構築されたシステムの画面は項目数も多く、言語系の開発ならばデバッグにも手間がかかるものであろう。
XCuteの特性を知り尽くした福井氏の力もあり、普通にSIerが構築すると数千万円規模のシステムを自らの手で構築できている。
最終的に構築されたシステムの画面数120画面(更新系60画面)、帳票70票、テーブル90、ビュー100という規模になった。
本システムは、2021年4月に本番開始した。
構築システム
システム一覧
●健診管理:「雇入れ健診」、「定期健診」、「特定業務従事者健診」、「生活習慣病健診」
●健康管理:「精密検査受診管理」、「長時間労働健康管理」、「相談・療養管理」
●活動報告:「安全衛生活動報告」、「労基署報告」、「健康管理年報」
※下記画像に含まれる職員情報(職員番号、氏名、生年月日、性別等)は架空のものです。
定期健診ーメニュー
メニューが階層化されており、いま何をすれば良いかという説明をする必要がないように考慮されています。
このシステムは画面数が多いこともあり、メニュー項目の脇に、「tex_xxxx」といった形式で使っているひな型の名前を入れており、どのひな型を指しているか明確にしています。これは利用者から見たらただの記号であり邪魔にはならない物です。システムメンテナンス者から見ると、ひな型をたどりやすい重要な情報となります。
定期健診ー未受診理由・指導区分変更の職員選択
定期健診ー定期健診データメンテナンス
定期健診データは健診事業者からの健診結果を取り込みます。
・健診結果(カルテ)の詳細の閲覧
・健診事業者以外の健診機関で受診した内容を入力します。
健診データを入力する画面です。これも使い方の説明は不要なほど整理されています。
特定業務従事者健康診断メニュー
階層化されたメニューとなっており、理解しやすさに重点が置かれています。
有害業務に従事する労働者等を対象として実施する健康診断。
(深夜業務、有害物の取扱者[有機溶剤、特定化学物質等]、VDT作業・・・等)
特定業務従事者健康診断―健診対象者 (職員選択)
特定業務従事者健康診断―健診対象者
精密検査管理メニュー
精密検査管理ー精密検査状況一覧表
精密検査管理ー精密検査対象者・結果登録
長時間労働メニュー
長時間労働ー長時間面接一覧表
長時間労働ーセルフチェック票
療養・相談管理メニュー
療養・相談管理ー療養・相談管理
療養・相談管理ーデータ一覧 (時系列順・日付降順)
療養・相談管理ー データ一覧 (データ種別順・日付降順)
まとめ
今までメールにてデータの受け渡しを行っていた為、都度、メールを送信し入力を促したり、また訂正の度にファイル送信をおこなっていたわけであるが、Web化することにより、入力の告知を行うだけで済むようになった。システム化する事により大幅な省力化が実現したので、本来の「分析、意思決定」の時間を大きく取ることができるようになった。
今後クラウド上にある他システムへの連携や、既存の人事データベースとの連携、組織変更対応としてLDAPを利用するよう修正を進めている。
また、ユーザインタフェースの面としてメンバー向け、マネージャ向けなどを最適化して、より使いやすくしてゆく予定である。
同庁の事例は、データを一元管理することにより、本来の目的の為の時間を大きく得ることができた興味深いものではないだろうか。